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畳の部屋(和室)のマナー

畳の部屋で気をつけたい事(マナー編)

意外と犯してしまいがちな畳の部屋でのマナー。今回は、「座布団」と「目線」についてお話しします。

座布団のマナー

畳に部屋は座布団がつきものです。落ち着いて座るためにも必要ですし、部屋に入った時、どこに座っていいのかを明確にしてくれているもの座布団です。畳の部屋には座布団が必需品なのです。しかし、意外とこの座布団の使い方のマナーが知られていません。洋間のクッションに慣れた事もあり、座布団もクッションと同じように扱われてしまっているのでしょう。座布団のマナー違反がとても多いです。
例えば、座布団を平気で踏んでいる方はいませんか?意外と多くの人が知らず知らずのうちに犯しているマナーです。さらに、踏んで歩くのはもちろんですが、座布団に座っている状態から立ち上がるときも、座布団の上に足を置いてはいけないという事をご存知ですか?
本来は、座布団から立ち上がる時、正座した状態からまず体を後ろにずらしてつま先を座布団から外し、畳につま先を立てて、座布団には膝をついて立ち上がるのが本来の立ち上がり方なのです。つま先でにじって座布団を傷めないようにするという、ものを大切にする日本人の心の現れです。大切にしたいマナーですね。

目線のマナー

また、意外と知られていないのが和室での挨拶です。これも、座布団とクッション同様、洋間の生活に慣れてしまったため、西洋式のマナーと混同されてしまったのが間違いの原因ではないでしょうか。
今では、畳の部屋でも普通に立って挨拶される場合が多いですが、本来は、和室での挨拶は原則として座って行うのが礼儀です。状況によって、立って挨拶をしなければならない時には、 さりげなく「失礼をお許し下さい」と一言述べるとスマートです。

立ったままの挨拶はマナー違反
なぜ立ったままでの挨拶がマナー違反なのかというと、日本の文化(これは、共通する他の文化も多いと思いますが)目線の高さが身分に反影するからです。
つまり、目線の高い者が目上と言う訳です。立ったままでは、背の高い人が目上になってしまいます。
座る事で目線の高さが揃いますので、その状態で挨拶するという事です。それに伴って、襖の開け閉めも座って行うのが礼儀です。
例えば、目上の方が部屋で座っているのに、立って襖を開けたら、目上の方を見下ろすことになります。これでは、マナー違反ですね。そのため、お部屋の中にどなたが居ても無礼にならないように、襖は座って開閉するのです。
日本人の心遣いの細やかさと奥ゆかしさの現れです。大切にしたいですね。

畳の用語集
【畳】 い草を織った畳表を、藁を重ねて麻糸で締めた畳床の上に縫い付けた床材。通常は両縁に縁をつける。
【畳表】 い草と麻糸で織ったござ。畳の表に縫い付ける。
【畳床】 畳の土台になる部分。藁を重ねて麻糸で締めたもの。現在では発泡スチロール、木質繊維・チップなどを用いた軽量で安価なものもある。
【畳縁】 畳の縁につける細長い布。畳の角や側面を保護する。布製やナイロン製のものがあり、柄も様々。
【縁無し畳】 畳に縁をつけず、全て畳表で覆ったもの。縁が無いのがその名の由来。代表的なものに琉球畳がある。
【藁床】 稲藁を原料として作られる、昔から使われている畳床。丈夫で耐久性があり、通気性・断熱性・弾力性・防音性にも優れている。
【藁サンド床】 発泡スチロールを藁で挟んだ畳床。丈夫だが高価な藁と、安価で軽い発泡スチロールとを組み合わせた畳床。
【双目畳表】 双目織りという、柔らかい仕上がりになる織り方でい草を織った畳表。
【琉球畳表】 断面が三角形という特徴を持つ琉球い草を使って織り上げた畳表。表面は通常の畳より荒い手触り。摩擦や折り曲げに強く、縁をつけなくても丈夫なため、縁無し畳に仕上げられることが多い。
【琉球畳】 畳表に琉球畳表を使用した正方形の畳。丈夫な特性を活かして、縁なし畳として仕上げることが多い。なお、琉球畳全てが縁なし畳という訳ではなく、琉球畳表を使った畳を、縁の有無に係らず、琉球畳と呼ぶ。
【染土】 畳の製作において、い草の日焼け止め・保湿のために行う「泥染め」という工程に用いる土。この染土で染めることで畳特有の香りが生まれる。
【泥染め】 畳の製作において、水に溶かした染土にい草をつけ込む作業のこと。畳独特の色合いを出したり、退色を防いだりする。また、この作業によって畳独特の香りが生まれる。
【置き畳】 部屋に敷き詰めるのではなく、必要な場所に置いて用いる畳。主にフローリングなどに並べて敷く。
【薄畳】 厚さが15 ~ 30mm と薄く、段差を極力なくした畳。主にフローリングに並べて敷く。
【上敷き】 主にい草で織った敷物。構造は畳表とほぼ同じで、縁がついている。カーペットやラグのように床に敷く。
【坊主畳】 縁なし畳の別名。
【裏返し】 畳から畳表を剥がして裏返し、再使用すること。
【表替え】 畳の畳表を新しいものに取り替えること。
【畳替え】 畳そのものを全て新品に取り替えること。
【江戸間】 畳の寸法を指す言葉。五八間とも呼ぶ。五尺八寸× 二尺九寸が基準。主に静岡以北の関東で使用されるが、全国的にも使われる。
【京間】 主に西日本で使用されている建築の基準寸法。本間とも呼ぶ。長さ六尺三寸、幅三尺一寸五分を一畳とする。
畳の縁を踏まない理由

畳の縁を踏まない。日本人の細やかな心遣い。

「畳の縁は親の頭」など、例え方は様々ですが、畳の縁は「踏んではいけないもの」として躾けられた方が多いのではないでしょうか。では、なぜ畳の縁を踏んではいけないのでしょうか。こう尋ねられて、答えられる方は少ないのではないでしょうか。畳の縁を踏んではいけない理由をお話ししたいと思います。

このならわしは、茶道の世界から伝わるもので、茶道では躾事項のひとつになっています。その理由は諸説ありますが、最も有力な説は、格式を重んじる風習から来ているというものです。畳の縁は、素材をはじめ、色、柄それぞれ多種多様です。古来から身分を表し、時代が下るにつれて細分化・厳格化されて来たという歴史があります。中でも、格式を重んじる場合は家紋を入れる場合があります。これを「紋縁」と呼びます。今でも仏閣や武家屋敷など、歴史的な建物で見かける事が出来ます。つまり、紋縁を踏むということは、その家の象徴を踏んでいるのと同じで、無礼であるとされたのです。その心が、脈々と受け継がれ、例え紋縁でなくても畳の縁は踏まないものとされてきたという訳です。「畳の縁は親の頭。」というこのお話の最初のたとえは、説明として的を射ていると言えるでしょう。
その他にも、踏んではいけない理由として、畳の強度についての説があります。昔の畳は植物染めが大半を占め、また素材や作りも様々でそれほど丈夫でない畳も多く、摩擦などによる劣化は今より著しかったそうです。そんな畳の縁、つまり畳の端の方を繰り返し踏んでしまうと、畳の形が歪み、早く傷んでしまいます。そこで、畳はなるべく傷みにくい中心を踏むようにという、畳への心遣いが、「縁を踏まない」というところに結びついたという事です。
今では、紋縁を使う家も少なく、技術も進歩して畳も頑丈になりました。しかし、相手を尊重する姿勢や、ものを労わる心の現れである「縁を踏まない」という行為は生きています。こうした、日本人の粋な心の現れを守っていきたいですね。

日本の心畳

私たち日本人には馴染み深い畳。最近では、新築はコストの安いフローリングの部屋が一般的で、和室はずいぶん減少してしまいました。しかし、フローリングの上に敷くことができる琉球畳やユニット畳などが人気を集めたり、一部屋は和室のある住宅が好まれたり、「和モダン」という、和洋折衷のデザインスタイルがスタンダード化してきていることなど、再び和室・畳の良さが見直されてきています。また、畳の歴史を紐解くと、畳は敷物から始まり、やがてベッドのように使われ、次第と床材として広まってきました。長い日本の歴史の中で畳は、体を休める道具として、時には権力の象徴として、常に日本人と共に歩んできました。

家に上がるときには靴を脱ぐ。日本特有の文化を育んだ畳の生活。

「家に上がる」「家に上がらせてもらう」日本では、家は「上がる」ものです。これは、日本文化が生んだ特有の言い回しです。欧米では、「家」にはIN(イン)やNTER(エンター)であって、「上がる」のではなく単に空間に入るという表現になります。これは、日本では靴を脱いで一段上に「上がる」のに対して、欧米ではそのまま「入る」という、家に入る動きの違いがそのまま言葉に反影しているのです。この違いには、靴ではなく、素足で上がる「畳」の存在が大きく影響しています。欧米では、寝室のベッドにまで、靴を履いたまま横たわるようなこともあります。「家」だけではなく、ベッドに対してもIN(イン)なのです。日本では靴で布団に横になることは普通あり得ません。家の中では素足。これが日本家屋の特徴です。「家の中では靴を脱ぐ」というこの習慣は、洋間が主流になった今でも変わる事はありませんでした。西洋建築のお宅でも、玄関に靴箱があり、土間は明確に区別されていて、そこで靴を脱ぎます。スリッパに履き替えるというお宅も多いと思いますが、リラックスするときは、素足という方も多いのではないでしょうか?
靴を脱ぐと、ほっとする。この、何ともいえない開放感は、日本人なら誰もが味わっている感覚だと思います。そして、畳の部屋で、好きなように座ったり、寝転んだり。それこそ、はいはいをしているような小さなお子さんとさえも、同じ目線の高さで過ごします。畳の部屋には、い草の香り、詰まった藁の弾力などが生み出す温もりがあります。また、座るところを限定される椅子やソファーと違い、畳に直に座ることで、部屋と一続きであるという広がり、草原に腰を下ろしたような開放感を感じるのではないでしょうか。
こうした、私たちが心地よく過ごすための建築の工夫は、普段気づかないところにも多くちりばめられていますが、その出発点になっているのが、畳という床材の存在にあると言えるでしょう。床材が畳だからこそ、日本人が古来から積み上げてきた建築の工夫が活かされるのです。

目線の低さが癒しにつながる。畳の部屋だからこそ。

和室に入ったとたん、自分や他人がいつもより大きく感じたという経験はありませんか?
これは錯覚なのですが、その錯覚を生み出す原因は「畳」にあります。
畳の部屋では、畳に直に座って生活し、畳に布団を敷いて眠ります。そのため、和室空間全体が目線を低くした位置での利便を考えて構築されています。こたつはテーブルの半分以下の高さですし、ちゃぶ台もそうです。そのため、人が立ち上がると目線が高くなり、相対的に大きく感じるのです。
人は高い位置では、気分が高揚し、低い位置では落ち着きます。和室はこうした本能的なものを上手く利用し、目線を低くする事で、心の落ち着く空間、癒しの空間を作り出しているのです。
この他にも、天井の位置や色によっても心の落ち着き具合が異なることが分かっています。一般的に、重厚感があった方が、落ち着くとされており、高い天井よりは低い方が、色も、明るいよりも暗めの方が、より重厚に感じ、落ち着きを得られます。こうした面からも日本家屋、そして和室の癒し効果が証明されているのです。心理学も何もない時代から、日本人が独自の感覚を活かし、工夫を繰り返して作られてきた和室が、どういった空間を求めて追究されてきたのかが、伺われます。
「我が家が癒される空間であること」これは誰もが望むところだと思います。一日働いて、学んで、それぞれ疲れを抱えて帰宅する家族。家に求めるものは、「疲れを癒してくれる事」ではないでしょうか。椅子に座って休憩する。ソファーに寝転がる。それでも体は休まるかもしれません。しかし、「心の休憩」はどうでしょう?家族の皆さんが「家に早く帰りたいな」と思うのは、この心の疲れの癒しが伴うからこそではないでしょうか?心の癒しを長い年月をかけて追究してきた部屋、それこそが和室です。しかも、その癒しは、日本人が、自分たちのために最も適したものを選択し、突き詰めてきたものです。「和室が何かほっとする。」これは、当然のことなのかもしれませんね。

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